筋萎縮性側索硬化症(ALS)
筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)神経、特に運動ニューロンが障害されることによって、全身の筋力が発揮できなくなっていく病態発症から時間の経過に伴って、症状が進行し、これまで当たり前にできていたことができなくなっていく。生存を維持するためには、非常に多くの支援が必要となるため、知識を持って生活準備を進めることが大切である。
「今後どう生きるか」準備が必要な疾患
現状(2020年11月)根本的な治療法はなく、ALSは必ず進行するので、病気がわかったときから「いかに生きるか」を考え、自分で納得のいく準備ができることが必要となる。生きていくために必要なことをしり、準備をすることと、そのための周囲の支援を構築していくことが必要である。
病状の進行と対処療法への理解
全体としてALSの進行は早いと言われており、2~5年で人工呼吸器を装着しない場合には呼吸が困難となり生存が難しくなる。[1]
現在の医療では病気が改善することはないので、病状が進行するとどのような対処療法が必要となるのかについての理解を深める必要がある。
対処療法については、下記に詳しく掲載する。
活用できる公的補助
個人の資産のみでALSに対応するのは金銭的に非常に困難を来すため、利用できる公的補助を積極的に利用することが必要である。
家族との話し合い
家族が今後、主たる介護者となる可能性が高い場合は、家族との話し合いを早くからしっかりと重ねておくことが必要である。
ALSの団体とのコンタクト
ALSと診断されたら、まず周囲に頼ることがで切るようになることが最も必要なことである。
その手始めとして、ALSに関連する各種団体とつながりを持つことが大切である。
在宅生活環境の整備
ほぼ寝たきりの生活となったあとも、自宅での生活をおくることになるので、人的リソースや公的支援などの整備を行っておくことが必要であり、関連団体からの助言が非常に有用な情報となる。
疾患の特徴
下記の家族性ALSを除けば、遺伝はしない。
体の運動を司る神経のみが衰え、感覚や思考認知機能は健全に保たれる。
最終的には閉じ込め症候群と同じような状態となる可能性ゼロではない。
但し、症状の進行のスピードは人によって大きく異なる。
初期症状
体の部位のどこから機能低下が起こるかによって、初期症状の分類がなされることがある。
上肢型
上肢の動きが悪化する。食事の際にうまく箸が持てなくなるなどして判明することもある
下肢型
歩行が難しくなったり、階段や坂の登り降りが困難となる。
球麻痺型
舌や口蓋、咽頭、喉頭などの運動機能が低下する。食事における摂食・嚥下が困難となる。
呼吸筋麻痺型
手足の運動機能が低下するよりも先に、呼吸が困難になる。
疼痛
ずきずきとうずくような痛みや圧迫による強い痛みなどが生じることもある。ひどい場合には薬物による対処療法も選択肢となりうる。
呼吸困難
呼吸に関する筋肉、呼吸筋の機能も失われるため自力での呼吸は困難となる。
そこまで症状が進行すると、生命維持のために人工呼吸器の使用が必要となる。
前頭側頭型認知症
ALSにおいては、前頭側頭型認知症を併発することがある。
診断[1]
ALSは、脳神経内科で確定診断が行われる。
ALSを疑うにあたって、重要なのは目視による筋萎縮の確認である。
主要項目
以下の①~④の全てを満たすものを、筋萎縮性側索硬化症と診断する。
①成人発症である(生年月日から判断する。)。 ②経過は進行性である。 ③神経所見・検査所見で、下記の1か2のいずれかを満たす。 身体を、a.脳神経領域、b.頸部・上肢領域、c.体幹領域(胸髄領域)、d.腰部・下肢領域の4領域に分ける(領域の分け方は、2 参考事項を参照)。 下位運動ニューロン徴候は、(2)針筋電図所見(①または②)でも代用できる。 1.1つ以上の領域に上位運動ニューロン徴候を認め、かつ2つ以上の領域に下位運動ニューロン症候がある。 2.SOD1遺伝子変異など既知の家族性筋萎縮性側索硬化症に関与する遺伝子異常があり、身体の1領域以上に上位及び下位運動ニューロン徴候がある。 ④鑑別診断で挙げられた疾患のいずれでもない。
針筋電図所見
①進行性脱神経所見:線維束性収縮電位、陽性鋭波、線維自発電位。 ②慢性脱神経所見:運動単位電位の減少・動員遅延、高振幅・長持続時間、多相性電位。
鑑別診断
①脳幹・脊髄疾患:腫瘍、多発性硬化症、頸椎症、後縦靱帯骨化症など。 ②末梢神経疾患:多巣性運動ニューロパチー、遺伝性ニューロパチーなど。 ③筋疾患:筋ジストロフィー、多発性筋炎、封入体筋炎など。 ④下位運動ニューロン障害のみを示す変性疾患:脊髄性進行性筋萎縮症など。 ⑤上位運動ニューロン障害のみを示す変性疾患:原発性側索硬化症など。
重症度分類[1]
1.家事・就労はおおむね可能。 2.家事・就労は困難だが、日常生活(身の回りのこと)はおおむね自立。 3.自力で食事、排泄、移動のいずれか1つ以上ができず、日常生活に介助を要する。 4.呼吸困難・痰の喀出困難あるいは嚥下障害がある。 5.気管切開、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養等)、人工呼吸器使用。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
治療
主に、対処療法や、必要な機器を使用していくことで、状況に対処していくことになる。
服薬
リルゾール
症状進行を遅らせることを目的に「リルゾール」が用いられる。
この薬は、神経細胞を保護して、病状の進行を遅らせるという戦略で用いられるが必ず効果が期待できる性質のものではない。[2]
また、症状進行を遅らせる薬であって、症状改善が期待できる性質のものではないので、一度進行した症状が治ることはこの薬では期待できない。
痛み止め
筋肉の変性に伴って痛みが発生することがあるため、それに対処するための痛み止めが処方されることがある。
抗不安薬
睡眠薬や精神安定剤などが必要によって処方されることがある。
リハビリテーション
意思疎通装置などの運用には、作業療法などの場面での事前の習熟が必要であり、リハビリテーションは病気の診断後の生活を豊かにするための戦略の一つとして重要である。
意思疎通のための装置
ALSは、全身の骨格筋および、呼吸に必要な筋力も低下していくことになる。
そのため、発語や書字が困難となり意思表示を行うことが次第に困難となっていく。
比較的最後まで出力機能が保たれる傾向のある、眼球周辺の筋力を活用した、意思表示装置が広く知られ用いられている。
また、現在開発中のものとして、脳波を利用したコミュニケーション装置の開発も進んでいる。
一方、それらを利用するためには一定の習熟、訓練が必要である。
早めに導入して、周囲の人とのコミュニケーションの中に織り込んでいくことが必要である。
人工呼吸器
技術の進歩によって、気管切開しなくても利用できる人工呼吸器も進歩しており、選択肢はかつてにくらべて広がっている。
必要に応じて、気管切開をともなう人工呼吸器の導入も必要である。
胃ろう
口腔からの食事摂取が困難になると、栄養をとるために、胃とお腹に穴を開けて、直接栄養を注入して摂取できるようにすることが必要になる。
胃ろうを行うためのルートの造設は、呼吸筋力が低下してからではリスクが高まるので、早めの決断で早めに導入することが大切である
原因
不明。[3]
ただし下記の家族性ALSの場合には、要因として遺伝子の研究が進みやすいことから、関連遺伝子が明らかにされつつある。
家族性ALS
全体のなかのおよそ5%は、遺伝子が原因となって発症する家族性ALSと言われている。
ALSに罹患した著名人
津久井教生(ニャンちゅうの声優)
ALSと生きるを連載中。