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幹細胞(かんさいぼう、Stem Cell)は、自己複製能力と分化能力を持つ特殊な細胞であり、さまざまな細胞や組織に分化することができる。幹細胞は、発生学、再生医療、遺伝学など多くの分野で重要な役割を果たし、病気の治療や研究において欠かせない存在である。 | 幹細胞(かんさいぼう、Stem Cell)は、自己複製能力と分化能力を持つ特殊な細胞であり、さまざまな細胞や組織に分化することができる。幹細胞は、発生学、再生医療、遺伝学など多くの分野で重要な役割を果たし、病気の治療や研究において欠かせない存在である。 | ||
== 概要 == | == 概要 == | ||
幹細胞は、自己複製能力と分化能力を持つ特殊な細胞であり、再生医療や病気の治療、基礎研究において重要な役割を果たす。 | |||
胚性幹細胞、成体幹細胞、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、臍帯血幹細胞など、さまざまな種類が存在する。幹細胞の応用には多くの可能性があり、組織再生、臓器移植、血液疾患の治療、遺伝病の治療、発生学研究、薬剤スクリーニングなど多岐にわたる。 | |||
しかし、拒絶反応や分化の制御、腫瘍形成のリスクなどの課題や、倫理問題も存在する。今後の研究と技術の進展により、幹細胞の可能性がさらに広がり、医療や科学の発展に貢献することが期待される。 | |||
== 種類 == | == 種類 == | ||
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=== 胚性幹細胞(Embryonic Stem Cells, ES細胞) === | === 胚性幹細胞(Embryonic Stem Cells, ES細胞) === | ||
ヒトやマウスの初期胚(胚盤胞)から将来胎児になる細胞集団(内部細胞塊)の細胞を取り出し、あらゆる細胞に分化できる能力(多能性)をもったままシャーレの中で培養し続けることができるようにしたもの<ref>[https://www.toho-u.ac.jp/sci/biomol/glossary/bio/embryonic_stem_cell.html ES細胞(胚性幹細胞) | 生物分子科学科 | 東邦大学]</ref> | |||
* '''定義''': 胚盤胞の内部細胞塊から得られる幹細胞であり、全能性を持つ。 | * '''定義''': 胚盤胞の内部細胞塊から得られる幹細胞であり、全能性を持つ。 | ||
* '''特徴''': 体のすべての細胞に分化可能である。 | * '''特徴''': 体のすべての細胞に分化可能である。 | ||
=== 成体幹細胞(Adult Stem Cells) === | === 成体幹細胞(Adult Stem Cells) === | ||
成体幹細胞には、赤血球や白血球、血小板など血液の細胞を生む造血幹細胞や神経細胞をつくる神経幹細胞など、さまざまな種類がある。分化した細胞が集まった組織のなかに存在し、その組織を維持したり修復したりするための細胞を生み出す。<ref name=“icems1”>[https://www.icems.kyoto-u.ac.jp/more/scope/stemcell/ 幹細胞研究とアイセムス | iCeMSリサーチスコープ | 京都大学アイセムス]</ref> | |||
* '''定義''': 成体の組織や臓器に存在し、特定の細胞や組織に分化する能力を持つ幹細胞。 | * '''定義''': 成体の組織や臓器に存在し、特定の細胞や組織に分化する能力を持つ幹細胞。 | ||
* '''特徴''': 多能性または限定的な分化能力を持つ。骨髄幹細胞、神経幹細胞などが含まれる。 | * '''特徴''': 多能性または限定的な分化能力を持つ。骨髄幹細胞、神経幹細胞などが含まれる。 | ||
[http://www.nihs.go.jp/cbtp/home/Biologics-forum/BF1/1-CT1.pdf 成体幹細胞システムと再生医療 協和発酵工業株式会社 医薬研究本部 兼東京研究所 主任研究員 桜田 一洋先生] | |||
=== 誘導多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem Cells, iPS細胞) === | === 誘導多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem Cells, iPS細胞) === | ||
* '''定義''': 体細胞に特定の遺伝子を導入して多能性を持たせた幹細胞。 | * '''定義''': 体細胞に特定の遺伝子を導入して多能性を持たせた幹細胞。 | ||
* '''特徴''': ES細胞と同様の多能性を持ち、患者自身の細胞から作成可能である。 | * '''特徴''': ES細胞と同様の多能性を持ち、患者自身の細胞から作成可能である。 | ||
詳細は🐋[[iPS細胞]]の記事を参照 | |||
=== 臍帯血幹細胞(Cord Blood Stem Cells) === | === 臍帯血幹細胞(Cord Blood Stem Cells) === | ||
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* '''遺伝子操作''': 遺伝子操作による幹細胞の作成には倫理的な懸念がある。 | * '''遺伝子操作''': 遺伝子操作による幹細胞の作成には倫理的な懸念がある。 | ||
* '''クローン技術''': クローン技術の利用に関する社会的な議論が求められる。 | * '''クローン技術''': クローン技術の利用に関する社会的な議論が求められる。 | ||
==参照== | |||
<references /> |
2024年6月24日 (月) 22:05時点における最新版
幹細胞(かんさいぼう、Stem Cell)は、自己複製能力と分化能力を持つ特殊な細胞であり、さまざまな細胞や組織に分化することができる。幹細胞は、発生学、再生医療、遺伝学など多くの分野で重要な役割を果たし、病気の治療や研究において欠かせない存在である。
概要
幹細胞は、自己複製能力と分化能力を持つ特殊な細胞であり、再生医療や病気の治療、基礎研究において重要な役割を果たす。
胚性幹細胞、成体幹細胞、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、臍帯血幹細胞など、さまざまな種類が存在する。幹細胞の応用には多くの可能性があり、組織再生、臓器移植、血液疾患の治療、遺伝病の治療、発生学研究、薬剤スクリーニングなど多岐にわたる。
しかし、拒絶反応や分化の制御、腫瘍形成のリスクなどの課題や、倫理問題も存在する。今後の研究と技術の進展により、幹細胞の可能性がさらに広がり、医療や科学の発展に貢献することが期待される。
種類
幹細胞には、いくつかの異なる種類があり、分化能力や起源によって分類される。以下に主要な幹細胞の種類を示す。
胚性幹細胞(Embryonic Stem Cells, ES細胞)
ヒトやマウスの初期胚(胚盤胞)から将来胎児になる細胞集団(内部細胞塊)の細胞を取り出し、あらゆる細胞に分化できる能力(多能性)をもったままシャーレの中で培養し続けることができるようにしたもの[1]
- 定義: 胚盤胞の内部細胞塊から得られる幹細胞であり、全能性を持つ。
- 特徴: 体のすべての細胞に分化可能である。
成体幹細胞(Adult Stem Cells)
成体幹細胞には、赤血球や白血球、血小板など血液の細胞を生む造血幹細胞や神経細胞をつくる神経幹細胞など、さまざまな種類がある。分化した細胞が集まった組織のなかに存在し、その組織を維持したり修復したりするための細胞を生み出す。[2]
- 定義: 成体の組織や臓器に存在し、特定の細胞や組織に分化する能力を持つ幹細胞。
- 特徴: 多能性または限定的な分化能力を持つ。骨髄幹細胞、神経幹細胞などが含まれる。
成体幹細胞システムと再生医療 協和発酵工業株式会社 医薬研究本部 兼東京研究所 主任研究員 桜田 一洋先生
誘導多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem Cells, iPS細胞)
- 定義: 体細胞に特定の遺伝子を導入して多能性を持たせた幹細胞。
- 特徴: ES細胞と同様の多能性を持ち、患者自身の細胞から作成可能である。
詳細は🐋iPS細胞の記事を参照
臍帯血幹細胞(Cord Blood Stem Cells)
- 定義: 新生児の臍帯血から得られる幹細胞。
- 特徴: 造血幹細胞が豊富で、白血病やリンパ腫の治療に使用される。
特徴と能力
幹細胞の主要な特徴には、自己複製能力と分化能力がある。以下にそれぞれの特徴を示す。
自己複製能力
- 定義: 幹細胞が自己を複製し、同じ幹細胞を生成する能力。
- 意義: 幹細胞の維持と増殖に不可欠であり、再生医療や研究において重要な役割を果たす。
分化能力
- 定義: 幹細胞が特定の細胞や組織に分化する能力。
- 意義: 発生過程での組織形成や、損傷した組織の修復において重要である。
応用
幹細胞は、再生医療、病気の治療、基礎研究など多くの分野で応用されている。以下に主な応用例を示す。
再生医療
- 組織再生: 損傷した組織や臓器を修復・再生するために使用される。心筋梗塞や脊髄損傷の治療が例として挙げられる。
- 臓器移植: 患者自身のiPS細胞から臓器を作成し、拒絶反応を避けることが可能。
病気の治療
- 血液疾患: 骨髄移植や臍帯血移植による白血病やリンパ腫の治療。
- 遺伝病の治療: 患者の遺伝子を修正した幹細胞を移植し、遺伝病を治療する。
基礎研究
- 発生学研究: 胚性幹細胞を用いて発生過程を研究し、発生メカニズムの解明に貢献。
- 薬剤スクリーニング: 幹細胞を用いて新薬の効果や毒性を評価する。
モデル生物の作成
- 疾患モデル: 患者由来のiPS細胞を用いて疾患モデルを作成し、病気のメカニズムを研究。
- 遺伝子改変動物: 幹細胞技術を用いて遺伝子改変動物を作成し、遺伝子機能を解析する。
課題と倫理問題
幹細胞研究には多くの可能性がある一方で、いくつかの課題と倫理問題も存在する。以下に主な課題と倫理問題を示す。
課題
- 拒絶反応: 移植における免疫拒絶反応を克服する必要がある。
- 分化の制御: 幹細胞の分化を正確に制御する技術が求められる。
- 腫瘍形成: 幹細胞の無制限な増殖が腫瘍形成を引き起こすリスクがある。
倫理問題
- ES細胞の利用: 胚性幹細胞の取得には胚の破壊が伴うため、倫理的な議論がある。
- 遺伝子操作: 遺伝子操作による幹細胞の作成には倫理的な懸念がある。
- クローン技術: クローン技術の利用に関する社会的な議論が求められる。