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主動筋と拮抗筋が交代性かつ周期性に収縮する(reciprocal な)不随意運動。<ref>[https://www.igaku-shoin.co.jp/misc/pdf/1402107652.pdf 【運動系】不随意運動部位とパターンをどう診るか]</ref>
主動筋と拮抗筋が交代性かつ周期性に収縮する(reciprocal な)[[不随意運動]]。<ref>[https://www.igaku-shoin.co.jp/misc/pdf/1402107652.pdf 【運動系】不随意運動部位とパターンをどう診るか]</ref>
 
==作業療法と振戦==
 
食事時や、書字や描画時の振戦は、非常に精神的苦痛を伴う。
 
[[作業療法士]]は可能な限りその苦痛に寄り添い、取り除ける範囲で環境調整などの面で努力しなければならない。
 
===スプーンを使っての食事===
 
手の振戦がある場合には、箸よりもスプーンを用いることが多い。
 
しかし、これが嚥下が悪い場合には、食事場面での苦痛を増強することになる可能性がある。
 
その理由は、嚥下が悪い状態が併存していると、食事もとろみ付きだったり、咀嚼や食塊形成が不要な食事形態で提供されることが多いからである。
 
一口大の一般食であれば、起こらない問題であるが、たとえばとろみのなくなった粥をスプーンですくって食べようとするとき、口に運ぶまでの間に、振戦によってスプーンですくった食物が全て落下してしまうという現象はよく起こる。
 
そのため、皿から口まで食物をいかにうまく運び入れることが出来るように環境調整を行うかということが極めて需要な課題になる。
 
基本戦略は下記の通りである。
 
====皿から口までの距離を最短にする====
 
スプーンから食物が落下するのは、食物をスプーンですくいあげてから口に運ぶまでの間になる。
 
つまり、その距離を短くしてしまえば振戦によって、スプーンから食物が落下してしまう時間が短くなり、当然結果としてスプーンの中に残っている食物の量が多くなる。
 
====スプーンのくぼみを深くする====
 
上口唇の動きが十分ある事や、食物をすくう動作に問題が無いのであれば、くぼみを深くすることで食物がスプーンからこぼれ落ちることを一定程度防ぐ効果が見込める。
 
なお、一回当たりのスプーン使用時の運動負荷も上昇する。
 
====食物の粘性を上げる====
 
すくいあげる食物の粘度が高ければ高いほど、食物はまとまり、スプーンから落ちにくくなる。
 
ただし、とろみ剤でとろみを付与する場合、それがでんぷん系のとろみの場合は、唾液中に含まれるアミラーゼがとろみを無効化してしまう上、振戦のある手でスプーンを使用するとスプーンに付着した唾液を食物中に拡散してしまう結果となり、劇的にとろみが消失することとなる。
 
その為、でんぷん系のとろみ剤しか用いることが出来ない場合には、こと振戦の対策においては、現実的には、なかなか効果的に食物の粘性を向上させることが難しい。
 
==振戦の分類==
 
振戦はその生じるタイミングや、原因などによって分類される。<ref>[https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/03.html 手の震え | 国立長寿医療研究センター]</ref><ref>[https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/09-%E8%84%B3%E3%80%81%E8%84%8A%E9%AB%84%E3%80%81%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%81%8B%E5%8B%95%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E6%8C%AF%E6%88%A6 振戦 - 09. 脳、脊髄、末梢神経の病気 - MSDマニュアル家庭版]</ref>
 
臨床的には下記のものが重要である。
 
===企図振戦===
 
日常生活に極めて大きな影響を及ぼす可能性がある。
 
なにかをしようと思ったときにおこる振戦。
 
何かをしようと思って動作をすると震えがおこるので、震えにありとあらゆる動作が阻害される。
 
日常生活や生活行為、作業に大きな支障をきたすためQOLが低下する要因になりえる。
 
また、震えが恥ずかしいなどの主観から、参加や活動が制限される可能性もある。
 
===薬剤性パーキンソン===
 
服薬による副作用にて、生じるパーキンソニズムの結果として生じる振戦。
 
ドーパミン阻害薬などを服用することによって、振戦が生じている。
 
[[精神科領域]]では薬剤性パーキンソニズムは頻発する。そのため、精神科領域では[[パーキンソン病]]の要素を踏まえた[[リハビリテーション]]に関する知識や技術、連絡、調整能力が、[[作業療法士]]には当然求められることになる。
 
==参考==
 
<references />

2022年12月5日 (月) 09:17時点における最新版

主動筋と拮抗筋が交代性かつ周期性に収縮する(reciprocal な)不随意運動[1]

作業療法と振戦

食事時や、書字や描画時の振戦は、非常に精神的苦痛を伴う。

作業療法士は可能な限りその苦痛に寄り添い、取り除ける範囲で環境調整などの面で努力しなければならない。

スプーンを使っての食事

手の振戦がある場合には、箸よりもスプーンを用いることが多い。

しかし、これが嚥下が悪い場合には、食事場面での苦痛を増強することになる可能性がある。

その理由は、嚥下が悪い状態が併存していると、食事もとろみ付きだったり、咀嚼や食塊形成が不要な食事形態で提供されることが多いからである。

一口大の一般食であれば、起こらない問題であるが、たとえばとろみのなくなった粥をスプーンですくって食べようとするとき、口に運ぶまでの間に、振戦によってスプーンですくった食物が全て落下してしまうという現象はよく起こる。

そのため、皿から口まで食物をいかにうまく運び入れることが出来るように環境調整を行うかということが極めて需要な課題になる。

基本戦略は下記の通りである。

皿から口までの距離を最短にする

スプーンから食物が落下するのは、食物をスプーンですくいあげてから口に運ぶまでの間になる。

つまり、その距離を短くしてしまえば振戦によって、スプーンから食物が落下してしまう時間が短くなり、当然結果としてスプーンの中に残っている食物の量が多くなる。

スプーンのくぼみを深くする

上口唇の動きが十分ある事や、食物をすくう動作に問題が無いのであれば、くぼみを深くすることで食物がスプーンからこぼれ落ちることを一定程度防ぐ効果が見込める。

なお、一回当たりのスプーン使用時の運動負荷も上昇する。

食物の粘性を上げる

すくいあげる食物の粘度が高ければ高いほど、食物はまとまり、スプーンから落ちにくくなる。

ただし、とろみ剤でとろみを付与する場合、それがでんぷん系のとろみの場合は、唾液中に含まれるアミラーゼがとろみを無効化してしまう上、振戦のある手でスプーンを使用するとスプーンに付着した唾液を食物中に拡散してしまう結果となり、劇的にとろみが消失することとなる。

その為、でんぷん系のとろみ剤しか用いることが出来ない場合には、こと振戦の対策においては、現実的には、なかなか効果的に食物の粘性を向上させることが難しい。

振戦の分類

振戦はその生じるタイミングや、原因などによって分類される。[2][3]

臨床的には下記のものが重要である。

企図振戦

日常生活に極めて大きな影響を及ぼす可能性がある。

なにかをしようと思ったときにおこる振戦。

何かをしようと思って動作をすると震えがおこるので、震えにありとあらゆる動作が阻害される。

日常生活や生活行為、作業に大きな支障をきたすためQOLが低下する要因になりえる。

また、震えが恥ずかしいなどの主観から、参加や活動が制限される可能性もある。

薬剤性パーキンソン

服薬による副作用にて、生じるパーキンソニズムの結果として生じる振戦。

ドーパミン阻害薬などを服用することによって、振戦が生じている。

精神科領域では薬剤性パーキンソニズムは頻発する。そのため、精神科領域ではパーキンソン病の要素を踏まえたリハビリテーションに関する知識や技術、連絡、調整能力が、作業療法士には当然求められることになる。

参考