自己決定

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自分で物事を決めること。またそのプロセス。

原始的な環境はもちろん、自由な社会や資本主義社会においては、自己決定の能力が社会での生きやすさを大きく左右する。

原則として、作業療法は対象者の自己決定を基盤としている。

自己決定を困難にする要因

自己決定を困難にする要因には様々なものがある。

制約と困難

各種の制約が達成が困難と思われるイメージを作り出す。

例えば、1000万円必要であると言われた時、即決できるかどうかである。多くの人は二の足を踏んだり、しっかりと考えようとする。そのまま決定が先延ばしにされ、いつの間にか決定がなされないまま時間が過ぎ去るということはままある。

「今はしない」と決めることも立派な自己決定であるが、悩むことで満足して、結論を先送りにしがちである。

これは、制約と困難に対して自分自身の存在とその状態がどのようであるかという比較が適切にできないことから逃れているに過ぎなく、いつまで経って問題は解決しないが現代社会においては、他者からそのことを指摘されうる機会が少ないままに生活を送ることが可能である。

そのため、自己決定をすることから逃げたい人々にとっては、重大事項に関する積極的自己決定がなされないまま日常生活を送るという状況が非常に生まれやすくなっている。

情報の過不足

十分な情報がないと自己決定できないと考えられているが、情報過多で決められないことも増えている。

人によって扱える情報量は異なるため、自分が扱える以上の情報を扱おうとしないことが、自己決定には大事である。

例えその自己決定のために間違えたとしても、それは自分の経験として受け止めて次に生かすのが人生である。

集めた情報は、きちんと使って自己決定を完結させなければならない。

教育

自分で、決めることがその後の人生の全てを左右するといっても過言ではないが、日本の教育は基本的に与える教育であり、そこには本人が自分で得たものを使う意思、自発性が期待されている。

しかし、その自発性を育む土壌が不足している環境下で生育した場合には、うまくそれらを自己決定に反映することができない。

教育の現場の内容は基本的に、自ら獲得しにいくことを教育するものではない為、それが自己決定をせずとも義務教育までの過程を終了することができる状況を作り出している。

周囲の人との相互作用不全

自己決定が困難な人と、自己決定をすることが当たり前の人とのコミュニケーションはことごとく噛み合わない。

社会に出て、自分のことを自分で決められない人間は、周囲の人との関係性の構築に困難をきたすことが多いが、その原因について本人が的確に自覚する事は経験不足により困難であることが多い。

また、周囲も、どのような原因でそのような振る舞いをするのかが理解できないことがほとんどである。

そのようにしてコミュニケーションが阻害されると、ますます経験が不足するという悪循環が生じうる。

適切な自信が獲得できていない

自分自身に対する信頼という意味においての自信が、不足している状況においての自己決定は困難を極める。

こうした意味での自信の不足は、決定的に経験が足りていない、もしくは経験から情報をうまく引き出す力が不全であることに由来することが多い。

自信が不足しているから、自分自身で決めることに自信がないので、自己決定を先送りにしたり、結局自己決定をしないということが起こるため、ますます経験が不足する。

ゼロリスク思考

また、過度に失敗を恐れたり、ゼロリスク志向で「本当はどうしたいのか」に対して目を向けることができない人が増えている。

これは、テレビなどで失敗をした人に対して批判的に取り扱うことを暗黙的に承認する景色が一般化していることや、教育で失敗しないために必要な事は教わるが失敗した時のリカバリーなどには一切触れない事、安定することが一般的に良いとされている社会文化的背景など、挙げればキリがない様々な要因が背景にある。

適切な自信が構築されていない事と合わさって、失敗できないから経験できない悪循環の大元になっている。

ゼロリスク思考は百害あって一理なしである。

試行錯誤が禁止されるからである。

人間は、正しい試行錯誤を行い、それらを積み重ねることでしか、より良い自己決定を行うために必要な確さの感覚や自己像、経験を得る事はできない。

問題の長期化

その人自身が自分で物事を決めることから逃れている場合においては、周りがいくら促しても自己決定を避け続けることがある。

こうした人々が自己決定を自分の力で行えるようになるまでには、非常に多くの時間や関わりが必要になるので投入するべき時間やコストは長期間で根気強く行うことが必要である。


作業療法対象者と自己決定

作業療法の対象者には自己決定の意思が要求される。

すなわち自分の人生にとって自分がより良いと考えるものを自ら選び取ろうとする力である。

そして、その決定に基づく責任を自ら取る、自分自身の人生に対する責任を自分で負うことである。

これは、自己維持セルフコントロールの能力に直結し、生活の自立に大きく影響する要素である。

自分で選び、自分で決める。

作業療法は、そうした自己決定のプロセスと自己決定そのものを、多面的な関わりの中で支援する。

例えどの領域であっても、そうである。

インフォームドコンセントは医師か、それを行うセラピストが必ず行うべきである。

そのようにして、適切な自己決定が行えるようにしてこそ、作業療法士リハビリテーションを行うことができる。

作業療法士と自己決定

作業療法を対象者に提供する、作業療法士にとっても自己決定は大きなテーマである。

自らが評価で得た情報をもとにして、自分で最適と考える治療計画を立案し、それを対象者に提案して了承を得なければならない。

そのプロセスにはエビデンスに基づく自己決定を繰り返して行うことが欠かせないのである。

つまり、作業療法士は自己決定ができないと、仕事を行うことがとても難しい。

マニュアル通りの仕事に終始したいと思っても現実がそれを許さないし、それでは解決しない問題が山積していくことになる。

「自分は向いていないかもしれない」と考える多くの作業療法士を悩ませている大きな要因の一つである。

それは、資格が生活を保証してくれるという勘違いに由来する。作業療法士の自身の生活を成り立たせるのは自身の技能によるところであって、資格によるものではない。例えるなら、料理人と同じ構造である。調理師免許があっても、拙い料理を提供すればその店は潰れるのが道理である。多角的視点から何が最善かを常に追求する店が生き残る。その点は作業療法士も同様である。限られたコストで顧客を満足させることができる最大のものを提供する、そのためには作業療法士には自己決定が欠かせないのである。

これは、主に新人の自己決定の経験が希薄な人生を送ってきた作業療法士がその業務において、指摘されないと気づけない要素でもあり、指摘されても修正の難しい要素である。

しかし、長期間かけて根気強く取り組めば、必ず修正が可能な生活習慣でもある。

自己決定が苦手な作業療法士自身がなんとか自己決定をしようとする意識と、周囲の粘り強い支援が欠かせない。