多系統萎縮症
脊髄小脳変性症に分類される疾患の一つで、厳密には表れる症状の機序などは細分化されるべきであろうが、必要なリハビリテーションの選択肢は、脊髄小脳変性症にほぼ同じと理解してよいと思われる。[1]
リハビリテーション、作業療法に関する内容としては、脊髄小脳変性症に準ずるので、脊髄小脳変性症の記事を参考のこと。
多系統萎縮症は、孤発性(非遺伝性)の脊髄小脳変性症に対する総称です。脊髄小脳変性症は、中枢神経系(大脳、小脳、脳幹、脊髄)が広く障害され、緩徐に進行する、いわゆる神経変性疾患と呼ばれる病気の1つです。脊髄小脳変性症の有病率は10万人あたり18人程度と考えられています。多系統萎縮症(MSA) | 東京都立神経病院
その他、孤発性の脊髄小脳変性症として、皮質性小脳萎縮症がある。[2]
分類
多系統萎縮症(MSA: Multiple System Atrophy)は、その主な症状に基づいて二つのタイプ、MSA-C(小脳型)とMSA-P(パーキンソン症候群型)に分類する考え方がある。
MSA-C(小脳型)
リスク管理においては、転倒予防(小脳の障害による平衡感覚の低下が転倒リスクを高めるため、環境の安全性を確保し、適切な補助具の使用を検討)、誤嚥のリスク(嚥下障害が進行すると、誤嚥による肺炎のリスクが高まります。食事の工夫や嚥下訓練が重要)などの視点が重要となる。
リハビリテーションの視点としては、
バランスと調整能力の向上(平衡感覚を養う運動や、立位や歩行時の安定性を高める訓練等)や、微細運動能力の維持(日常生活活動(ADL)を支援するため、手の微細な動きをサポートする訓練)が必要
MSA-P(パーキンソン症候群型)
リスク管理においては、筋肉の硬直と震えを踏まえた運動の学習、自律神経機能障害(血圧の急激な変動に対する監視と管理。特に、立ち上がる際の注意)
リハビリテーションの視点としては、
運動機能の改善、筋力を保持し、筋肉の硬直を和らげるための運動、ストレッチや筋力トレーニング
転倒リスクが軽減できる移動戦略の立案が必要です。
生活行為への影響
手先の細かい運動がしにくく、話しにくくなり、歩くのが難しくなることから始まり、発語によるコミュニケーションが困難となり、移動が困難となり、口腔摂取が困難となり、移動が困難となり、最終的には呼吸等への影響も生じる。
リハビリテーションの戦略
多系統萎縮症(MSA: Multiple System Atrophy)のリハビリテーションにおいては、進行性の疾患であり、出来ないことが増えていくので、出来るだけ症状の進行を遅らせるための試みを行う。
また、進行速度にも個人差があり、対象者の方の症状や進行度に合わせた個別のアプローチが必要となる。多系統萎縮症は、自律神経系、運動機能、および認知機能など多岐わたる症状が生じる可能性のある神経変性疾患で、それらを踏まえたリハビリテーションにおいて注意すべきポイントを整理する。
安全性の確保
自律神経失調による血圧の変動に注意し、立位時低血圧による失神や転倒のリスクを低減する。
筋力低下やバランス能力の低下による転倒予防策を講じることはもちろん転倒を織り込んだうえで、安全な生活環境に整えておくことが必要である。
機能維持
運動機能や自律機能が徐々に低下する。可能な限りこれらの機能の維持・改善を目指すことが出来るよう、筋力維持や柔軟性向上のための適切な運動プログラムを組み、対象者の方に自分でも行っていただけるように工夫をする。
小脳症状とパーキンソン症状
筋剛直性や震えなど、パーキンソン症状について、整理認識しておく。
発話や嚥下困難、口腔に関する障害については、言語聴覚士や医師によるリスク管理を行うことが出来ることが望ましい。
日常生活活動(ADL)の支援
日常生活における自立を支援するため、ADLが可能な限り自分で行っていただけるように、生活習慣の調整や便利な器具(Aid Tools)の使用を勧める。
総合的なアプローチ
医療から介護保険のスムーズな利用、包括的な取り組み、家族や介護者への指導も重要である。
患者さんとその家族に対する心理的サポートを提供する。
患者さんのニーズに応じたリハビリテーションチームによる総合的なケアプランの策定と実施。
予後
多系統萎縮症では線条体が変性するので、パーキンソン病に比べて抗パーキンソン病薬は効きが悪い。また、小脳症状や自律神経障害も加わってくるため全体として進行性に増悪することが多い。日本での230人の患者を対象とした研究結果では、それぞれ中央値として発症後平均約5年で車椅子使用、約8年で臥床状態となり、罹病期間は9年程度と報告されている。[3]
コミュニケーションの不良
コミュニケーションの障害が将来的に発生するので、早いうちにコミュニケーションに関するAidtoolsをしっかりと導入していくことが大切。
主要兆候[3]
①小脳症候:歩行失調(歩行障害)と声帯麻痺、構音障害、四肢の運動失調又は小脳性眼球運動障害
②パーキンソニズム:筋強剛を伴う動作緩慢、姿勢反射障害(姿勢保持障害)が主で(安静時)振戦などの不随意運動はまれである。特に、パーキンソニズムは本態性パーキンソン病と比較してレボドパへの反応に乏しく、進行が早いのが特徴である。例えば、パーキンソニズムで発病して3年以内に姿勢保持障害、5年以内に嚥下障害をきたす場合はMSAの可能性が高い。
③自律神経障害:排尿障害、頻尿、尿失禁、頑固な便秘、勃起障害(男性の場合)、起立性低血圧、発汗低下、睡眠時障害(睡眠時喘鳴、睡眠時無呼吸、REM睡眠行動異常(RBD))など。
④錐体路徴候:腱反射亢進とバビンスキー徴候・チャドック反射陽性、他人の手徴候/把握反射/反射性ミオクローヌス
⑤認知機能・ 精神症状:幻覚(非薬剤性)、失語、失認、失行(肢節運動失行以外)、認知症・認知機能低下
重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケール[3]
疾患の特徴[2]
孤発性
成年期以降に発症
パーキンソニズム、自律神経障害(特に起立性低血圧)、小脳運動失調
その他、病理学的には、小脳と脳幹の萎縮、αシヌクレインの蓄積
名称の由来[2]
多系統萎縮症は、従来別の疾患として記述された、オリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症、Shy-Drager症候群という3疾患が同一疾患の異なる病型である事が判明したため、それらを包括する病名として提唱された。
現在でも、3疾患は病態が異なるため、あえて使い分けがされることもある。
オリーブ橋小脳萎縮症
オリーブ橋小脳萎縮症は、多系統萎縮症のうち、中年以降に発症し特に50歳代に多い。[3]初発・早期症状として小脳性運動失調が前景に現れる。これに自律神経症状、パーキンソン症状等中枢神経症状が加わって進行性に経過する。遺伝性、家族性は認められない。[4]