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==リハビリ場面で知っておくべき呼吸に関する知識== | |||
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[[記憶]]との関連 [[呼吸]]が[[記憶]]の定着を左右しうると言われている。<ref>[https://univ-journal.jp/233954/ 呼吸パターンを操作すると記憶力が変化 兵庫医科大学と生理学研究所が発見 大学ジャーナルオンライン編集部]</ref> | |||
==呼吸と生命維持== | ==呼吸と生命維持== | ||
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それによって、生命を営む。呼吸は生命維持に欠かすことができない大切な活動である。 | それによって、生命を営む。呼吸は生命維持に欠かすことができない大切な活動である。 | ||
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[[作業療法士]]は常にその視点に立ち、すべからく呼吸の基本をふまえた[[評価]]と[[介入]] | [[作業療法士]]は常にその視点に立ち、すべからく呼吸の基本をふまえた[[評価]]と[[介入]]できる。ことが期待されていると自覚できると良い。 | ||
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つまり[[作業療法士]]としては、対象者の方に呼吸に問題がありその部分について優先的に問題解決するべき状況下においては、対象者の方が本当に取り組みたい[[作業]]に取り組むことに集中できない。この場合、[[作業療法士]]としてはその改善に取り組むか、その改善が可能な他の職種との協業が必要となる。 | |||
同時に、呼吸の課題が解決した場合に介入することになる内容についても準備を行う。 | |||
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つまり、現実問題として必然的に協業できる専門職が不在の場合は、[[作業療法士]]が積極的に[[呼吸器リハビリテーション]]を行う必要が出てくる。 | |||
また、[[リラクセーション]]として呼吸を用いることの有効性の報告<ref name="relax">[https://www.jstage.jst.go.jp/article/keitaikinou/10/1/10_8/_pdf/-char/ja 田中美智子他:意識的腹式呼吸がもたらす高齢者の自律神経反応及びホルモン変化.形態・機能第10巻第1号]</ref>もある。これについては、後述する。 | また、[[リラクセーション]]として呼吸を用いることの有効性の報告<ref name="relax">[https://www.jstage.jst.go.jp/article/keitaikinou/10/1/10_8/_pdf/-char/ja 田中美智子他:意識的腹式呼吸がもたらす高齢者の自律神経反応及びホルモン変化.形態・機能第10巻第1号]</ref>もある。これについては、後述する。 | ||
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脊柱側湾症などが、呼吸に対してネガティブな要因になると報告した研究<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/14/3/14_458/_pdf/-char/ja 會田信子他:高齢者の年齢および脊柱彎曲レベルによる呼吸機能の相違.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌2005年14巻3号p.458-462]</ref>がある。 | 脊柱側湾症などが、呼吸に対してネガティブな要因になると報告した研究<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/14/3/14_458/_pdf/-char/ja 會田信子他:高齢者の年齢および脊柱彎曲レベルによる呼吸機能の相違.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌2005年14巻3号p.458-462]</ref>がある。 | ||
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==呼吸のリハビリテーション== | |||
リハビリテーションにおいて、呼吸動作は患者の全体的な健康と回復をサポートする。特に、手術後や長期の臥床、または呼吸器疾患がある患者にとって、適切な呼吸技術を習得することが極めて重要となる。 | |||
===呼吸のリハビリテーションの目的=== | |||
目的を意識したリハビリテーションを行うことが重要である。 | |||
====肺機能の改善、代償==== | |||
特定の呼吸方法を通じて、肺の容量を最大限に活用し、呼吸効率を高め、肺機能の改善や代償を行う。 | |||
====低酸素状態の改善と酸素交換の最適化==== | |||
効率的な呼吸により、体内の酸素と二酸化炭素の交換が改善され、全身の酸素供給が促進され、血中酸素濃度の低下を改善することが期待される。 | |||
====呼吸筋の強化==== | |||
横隔膜や肋間筋など、呼吸に関連する筋肉の力を強化し、持久力を向上させ、より楽に呼吸を行うことが出来るようになることを目指す。 | |||
====痰の排出支援==== | |||
呼吸に関する筋力の低下は痰の喀出を困難にするため、効果的な呼吸を再学習することは、気道の清潔を保ち、痰の排出を助ける。 | |||
背部タッピング(背中を軽く叩くことで、肺の奥深くに蓄積した痰を剥がしやすくする技術)も重要。 | |||
===呼吸リハビリテーションの基本的な呼吸法=== | |||
====腹式呼吸==== | |||
横隔膜を活用して腹部を使って深く呼吸する方法。これにより、肺の下部にも空気が行き渡りやすくなる。 | |||
====肋骨呼吸(胸式呼吸)==== | |||
胸部を広げて呼吸する方法で、主に肋間筋を使います。これは、肺の上部に空気を効果的に送ることが期待できる | |||
====パーシップリップブリージング(口すぼめ呼吸)==== | |||
呼気時に唇をすぼめることで気道圧を維持し、より効率的な呼吸ができるようにする方法。 | |||
COPD患者に特に推奨されている。 | |||
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===せん妄リスク=== | ===せん妄リスク=== | ||
呼吸器疾患が[[せん妄]]の発症リスク<ref>[https://fukuoka-pu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=322&file_id=22&file_no=1 福田和美,上村美智留:高齢期呼吸器疾患患者のせん妄発症要因および回復時のトリガー要因と看護ケアの実態.福岡県立大学看護学研究紀要 6(1),26-34,2008]</ref>となる。[[作業療法士]] | 呼吸器疾患が[[せん妄]]の発症リスク<ref>[https://fukuoka-pu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=322&file_id=22&file_no=1 福田和美,上村美智留:高齢期呼吸器疾患患者のせん妄発症要因および回復時のトリガー要因と看護ケアの実態.福岡県立大学看護学研究紀要 6(1),26-34,2008]</ref>となる。[[作業療法士]]は、[[活動性]]の向上や[[日常生活リズム]]の獲得に向けた援助を行う。 | ||
==作業療法と呼吸== | ==作業療法と呼吸== | ||
[[作業療法]]を行うための基盤として、[[呼吸]]が出来る状態が整っていることが望ましいことは言うまでもない。 | |||
冒頭で述べたように[[作業療法士]]は、対象者の呼吸状態については、その[[作業療法士]]の携わる職域、領域にかかわらず留意しその呼吸がきちんと行えていることを定期的、ないし折に触れて確認できる知識と能力を備えることが必要となる。 | |||
端的には、[[姿勢]]と[[横隔膜]]や[[胸郭]]の状態をとらえる能力や、身体全体への程度な負荷のデザインが、[[作業療法士]]が呼吸にアプローチするときのポイントとなる。 | |||
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===運動負荷のデザイン=== | ===運動負荷のデザイン=== | ||
横隔膜をターゲットにした訓練と[[運動療法]]を併用する内容が、身体機能と[[QOL]]の向上に対して効果を上げたという報告<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/44/2/44_11170/_pdf/-char/ja 巻 直樹他:嚥下機能低下を呈した要介護認定高齢者に対する呼吸トレーニングが呼吸機能,嚥下機能,QOLに与える効果.理学13療8法学 第 44 巻第 2 号 138 ~ 144 頁(2017 年)理]</ref>がある。ただし、効果は6ヶ月程度を限度に継続しないという。つまり、日常生活をおくる中で同程度の負荷が得られるように、[[生活]]をデザインし提案することが[[作業療法士]]には求められる。 | |||
===低負荷集団的運動プログラム=== | ===低負荷集団的運動プログラム=== | ||
[[集団]]に対する、簡単な運動プログラムが、[[呼吸]]や[[歩行]]に好影響を与えるという報告<ref name="syudanp">[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/17/1/17_28/_pdf/-char/ja 會田信子他:女性高齢者に対する低負荷集団的運動プログラムの呼吸・歩行機能の評価.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌第17巻第1号.p.28-34]</ref>がある。 | |||
この中で、重要な意見が述べられており、それは効果の個人差についてである。その要因として、『運動に追随できる[[注意]]力などの[[認知機能]]や,参加率の差が影響していると考えられた.今後の課題として,[[認知機能]]が低下した[[高齢者]]に対する,運動プログラムのあり方に関する検討も必要と思われる.』<ref name="syudanp" />とある。ここに対する視点を[[作業療法士]]は持たなければならない。 | |||
[[作業療法士]]は、対象者の能動性・積極性や、[[認知機能]]の要素についての評価をプログラム実施しながらも並行して行っていくスキルを身につけておく必要があることが示唆される。 | [[作業療法士]]は、対象者の能動性・積極性や、[[認知機能]]の要素についての評価をプログラム実施しながらも並行して行っていくスキルを身につけておく必要があることが示唆される。 | ||
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[[作業療法士]]は、その専門領域をとわず、呼吸機能の改善だけでなく、呼吸によって得られる精神的な安定を目的として、[[リラクセーション]]の手段として呼吸を用いることが非常によくある。 | [[作業療法士]]は、その専門領域をとわず、呼吸機能の改善だけでなく、呼吸によって得られる精神的な安定を目的として、[[リラクセーション]]の手段として呼吸を用いることが非常によくある。 | ||
端的なものとしては、いわゆる「[[深呼吸]]」がある。 | |||
その効果のエビデンスとして、高齢者に対しての意識的腹式呼吸がリラクセーションに有効であるという報告<ref name="relax" />がある。当該論文中では、この意識的腹式呼吸のリズムは要約すると、 | その効果のエビデンスとして、高齢者に対しての意識的腹式呼吸がリラクセーションに有効であるという報告<ref name="relax" />がある。当該論文中では、この意識的腹式呼吸のリズムは要約すると、 | ||
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その職種は、理学療法士、[[作業療法士]]、言語聴覚士、そして医師である<ref name="kasan" />。 | その職種は、理学療法士、[[作業療法士]]、言語聴覚士、そして医師である<ref name="kasan" />。 | ||
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無論、[[作業療法士]]は他職種連携についての知見を持っておくことは必須である。対象者としては、日常生活に続く、役立つような作業療法をこそをもとめている。 | |||
===包括的介入としての呼吸リハビリテーション=== | |||
現在の制度を超えたより広い枠組みとしての呼吸リハビリテーションが、3学会(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸理学療法学会,日本呼吸器学会)より提言<ref name="stat">[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/27/2/27_95/_pdf/-char/ja 呼吸リハビリテーションに関するステートメント.本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌2018年第27巻第2号95-114]</ref>されている。 | |||
『呼吸リハビリテーションとは,呼吸器に関連した病気を持つ患者が,可能な限り疾患の進行を予防あるいは健康状態を回復・維持するため,医療者と協働的なパートナーシップのもとに疾患を自身で管理して自立できるよう生涯にわたり継続して支援していくための個別化された包括的介入である.呼吸リハビリテーションは原則としてチーム医療であり,専門のヘルスケアプロフェッショナルすなわち,医師,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,臨床工学技士,管理栄養士,歯科医師,歯科衛生士,医療ソーシャルワーカー,薬剤師,保健師,公認心理師,ケアマネージャー等の参加により,あるいは必要に応じて患者を支援する家族やボランティアも参加し行われるものである.』<ref name="stat" /> | |||
==参考文献一覧== | ==参考文献一覧== | ||
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2024年4月16日 (火) 13:08時点における最新版
息をすること。生命維持のために絶えず必要な営み。
作業療法士は、その人らしく生活するための作業支援の一環として、領域問わず呼吸を踏まえた介入ができることが大切となる。人間と作業療法にとっての呼吸について述べる。
リハビリ場面で知っておくべき呼吸に関する知識
記憶との関連 呼吸が記憶の定着を左右しうると言われている。[1]
呼吸と生命維持
いうまでもなく、呼吸は、人間にとってきわめて重要である。
なぜなら、人間が生きるためには十分に呼吸ができる必要があるからである。
人間は、呼吸によって酸素を取り込み、エネルギーを消費することで生命維持に必要な生理学的活動を行う。
それによって、生命を営む。呼吸は生命維持に欠かすことができない大切な活動である。
生命維持が安定すればこそ、人間は自らにとって重要な作業と向き合うことができる。
作業療法士は常にその視点に立ち、すべからく呼吸の基本をふまえた評価と介入できる。ことが期待されていると自覚できると良い。
作業療法士の呼吸に対する考え方
作業療法士としては、本当は作業に関する取り組みを行いたい。しかし、呼吸に問題がある場合その解決が優先される。
つまり作業療法士としては、対象者の方に呼吸に問題がありその部分について優先的に問題解決するべき状況下においては、対象者の方が本当に取り組みたい作業に取り組むことに集中できない。この場合、作業療法士としてはその改善に取り組むか、その改善が可能な他の職種との協業が必要となる。
同時に、呼吸の課題が解決した場合に介入することになる内容についても準備を行う。
呼吸が優先される理由はいうまでもない。作業療法士としては、本来的には応用動作の訓練や、作業を用いた介入に注力したいとしても、呼吸状態が悪ければ作業療法介入の成果は明らかに低下する。
つまり、現実問題として必然的に協業できる専門職が不在の場合は、作業療法士が積極的に呼吸器リハビリテーションを行う必要が出てくる。
また、リラクセーションとして呼吸を用いることの有効性の報告[2]もある。これについては、後述する。
呼吸の評価
作業療法士が臨床の現場で行うことができる呼吸の評価には以下のような要点がある。
SPO2
呼吸で一番大切なことは、動脈血酸素飽和度である。
動脈血の中の酸素の量である。
血中酸素濃度は呼吸がきちんと行えているかどうかの、最もわかりやすい指標となる。
一般的には、指標として業務に用いやすいSPO2を使う。
SPO2はパルスオキシメーターを用いる。
たとえば、以下のようなものがある。
肺への空気の出入り
呼吸は、肺に十分に空気をとりこみ、吐き出す、この換気がきちんとできていることがまず重要である。
きちんと厳密に検査をするためには、スパイロメータなどが必要である。
スパイロメータをつかった、より厳密な検査については、スパイロメトリーを参照。
姿勢
肺での換気が十分に行えるためには、換気が行いやすい姿勢が保てている必要がある。
脊柱側湾症などが、呼吸に対してネガティブな要因になると報告した研究[3]がある。
自力で良い姿勢を保てるように、姿勢保持や呼吸そのものに必要な筋にアプローチできることと並行して、自力で姿勢保持が困難な場合には、ポジショニングやシーティングを検討、実施することも重要である。
よって、作業療法士は必要に応じて、ポジショニングやシーティングを行う。
握力(要支援高齢者)
要支援高齢者については、呼吸筋力と握力、等尺性膝伸展筋力と有意な相関関係を示したという報告[4]がある。
これはつまり、握力測定を、呼吸の機能のスクリーニングの指標として用いることができるということである。握力は、握力計測器があれば、臨床で手軽に用いることができるので有用である。
握力計で信頼性・ブランド力があるものには以下のようなものがある。
呼吸のリハビリテーション
リハビリテーションにおいて、呼吸動作は患者の全体的な健康と回復をサポートする。特に、手術後や長期の臥床、または呼吸器疾患がある患者にとって、適切な呼吸技術を習得することが極めて重要となる。
呼吸のリハビリテーションの目的
目的を意識したリハビリテーションを行うことが重要である。
肺機能の改善、代償
特定の呼吸方法を通じて、肺の容量を最大限に活用し、呼吸効率を高め、肺機能の改善や代償を行う。
低酸素状態の改善と酸素交換の最適化
効率的な呼吸により、体内の酸素と二酸化炭素の交換が改善され、全身の酸素供給が促進され、血中酸素濃度の低下を改善することが期待される。
呼吸筋の強化
横隔膜や肋間筋など、呼吸に関連する筋肉の力を強化し、持久力を向上させ、より楽に呼吸を行うことが出来るようになることを目指す。
痰の排出支援
呼吸に関する筋力の低下は痰の喀出を困難にするため、効果的な呼吸を再学習することは、気道の清潔を保ち、痰の排出を助ける。
背部タッピング(背中を軽く叩くことで、肺の奥深くに蓄積した痰を剥がしやすくする技術)も重要。
呼吸リハビリテーションの基本的な呼吸法
腹式呼吸
横隔膜を活用して腹部を使って深く呼吸する方法。これにより、肺の下部にも空気が行き渡りやすくなる。
肋骨呼吸(胸式呼吸)
胸部を広げて呼吸する方法で、主に肋間筋を使います。これは、肺の上部に空気を効果的に送ることが期待できる
パーシップリップブリージング(口すぼめ呼吸)
呼気時に唇をすぼめることで気道圧を維持し、より効率的な呼吸ができるようにする方法。 COPD患者に特に推奨されている。
高齢化と呼吸器リハビリテーション
一般に高齢化によって呼吸機能は低下すると言われる。
ただしそれは傾向であって、本質は年齢ではなく、骨格筋力の低下などの要因であり、それらの結果が呼吸に影響を与える本質であるという報告がされている。[5]吸気 ・呼気筋力は加齢に ともなって男女 ともに低下するが、年齢や体格そのものが決定要因ではなく、握力に示されるような骨格筋力の低下などのいくつかの要因を含む加齢性変化によって生じている可能性が報告されている。
呼吸に影響する骨格筋を鍛えることで、呼吸状態を改善できる可能性がある。
呼吸機能は、要介護高齢者の身体機能や嚥下機能、ADL、IADL、QOLとの相関が報告[6]されている。ただし、この報告はあくまで、相関のレベルであるので、因果関係については言及されていないことに留意すること。
疾患リスク
また、高齢化すると、若年者に比べると肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)と肺がん等のリスクが高まると言われている。
COPDと肺がんに関するリファレンスとしてはこちらがインターネット上から参照できる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/44/2/44_2_158/_pdf/-char/ja
せん妄リスク
呼吸器疾患がせん妄の発症リスク[7]となる。作業療法士は、活動性の向上や日常生活リズムの獲得に向けた援助を行う。
作業療法と呼吸
作業療法を行うための基盤として、呼吸が出来る状態が整っていることが望ましいことは言うまでもない。
冒頭で述べたように作業療法士は、対象者の呼吸状態については、その作業療法士の携わる職域、領域にかかわらず留意しその呼吸がきちんと行えていることを定期的、ないし折に触れて確認できる知識と能力を備えることが必要となる。
端的には、姿勢と横隔膜や胸郭の状態をとらえる能力や、身体全体への程度な負荷のデザインが、作業療法士が呼吸にアプローチするときのポイントとなる。
また、作業療法士は呼吸機能そのものの改善ではなく、呼吸をリラクセーションなどの手段として用いることもできる。
運動負荷のデザイン
横隔膜をターゲットにした訓練と運動療法を併用する内容が、身体機能とQOLの向上に対して効果を上げたという報告[8]がある。ただし、効果は6ヶ月程度を限度に継続しないという。つまり、日常生活をおくる中で同程度の負荷が得られるように、生活をデザインし提案することが作業療法士には求められる。
低負荷集団的運動プログラム
集団に対する、簡単な運動プログラムが、呼吸や歩行に好影響を与えるという報告[9]がある。
この中で、重要な意見が述べられており、それは効果の個人差についてである。その要因として、『運動に追随できる注意力などの認知機能や,参加率の差が影響していると考えられた.今後の課題として,認知機能が低下した高齢者に対する,運動プログラムのあり方に関する検討も必要と思われる.』[9]とある。ここに対する視点を作業療法士は持たなければならない。
作業療法士は、対象者の能動性・積極性や、認知機能の要素についての評価をプログラム実施しながらも並行して行っていくスキルを身につけておく必要があることが示唆される。
リラクセーション
作業療法士は、その専門領域をとわず、呼吸機能の改善だけでなく、呼吸によって得られる精神的な安定を目的として、リラクセーションの手段として呼吸を用いることが非常によくある。
端的なものとしては、いわゆる「深呼吸」がある。
その効果のエビデンスとして、高齢者に対しての意識的腹式呼吸がリラクセーションに有効であるという報告[2]がある。当該論文中では、この意識的腹式呼吸のリズムは要約すると、
『吸気時間:呼気時間を約1:2 とし、深くゆっくりとした呼吸を1分間に6回のペースで行うものである。』
とされている。
呼吸をうまく用いることで、非侵襲的にリラクセーション効果が得られることが報告されている。
制度と呼吸器リハビリテーション
呼吸器リハビリテーション加算[10]は、診療報酬の仕組みの中にある。国が認める加算で、保険制度の仕組みの一つである。
一定の職種が、呼吸の訓練や指導をおこなうことで加算を請求できる[10]。
その職種は、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、そして医師である[10]。
呼吸と他職種連携
無論、作業療法士は他職種連携についての知見を持っておくことは必須である。対象者としては、日常生活に続く、役立つような作業療法をこそをもとめている。
包括的介入としての呼吸リハビリテーション
現在の制度を超えたより広い枠組みとしての呼吸リハビリテーションが、3学会(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸理学療法学会,日本呼吸器学会)より提言[11]されている。
『呼吸リハビリテーションとは,呼吸器に関連した病気を持つ患者が,可能な限り疾患の進行を予防あるいは健康状態を回復・維持するため,医療者と協働的なパートナーシップのもとに疾患を自身で管理して自立できるよう生涯にわたり継続して支援していくための個別化された包括的介入である.呼吸リハビリテーションは原則としてチーム医療であり,専門のヘルスケアプロフェッショナルすなわち,医師,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,臨床工学技士,管理栄養士,歯科医師,歯科衛生士,医療ソーシャルワーカー,薬剤師,保健師,公認心理師,ケアマネージャー等の参加により,あるいは必要に応じて患者を支援する家族やボランティアも参加し行われるものである.』[11]
参考文献一覧
- ↑ 呼吸パターンを操作すると記憶力が変化 兵庫医科大学と生理学研究所が発見 大学ジャーナルオンライン編集部
- ↑ 2.0 2.1 田中美智子他:意識的腹式呼吸がもたらす高齢者の自律神経反応及びホルモン変化.形態・機能第10巻第1号
- ↑ 會田信子他:高齢者の年齢および脊柱彎曲レベルによる呼吸機能の相違.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌2005年14巻3号p.458-462
- ↑ 山口育子他:要支援高齢者における呼吸筋力・呼吸機能と運動能力の関係.敬心・研究ジャーナル.p43-49
- ↑ 鈴木正史他:最大呼気・吸気筋力の加齢変化.日胸疾会誌.1997;35:1305-1311
- ↑ 要介護高齢者における呼吸機能と ADL・QOL との関連.日本プライマリ・ケア連合学会誌 2015,vol.38,no.1,p23-30
- ↑ 福田和美,上村美智留:高齢期呼吸器疾患患者のせん妄発症要因および回復時のトリガー要因と看護ケアの実態.福岡県立大学看護学研究紀要 6(1),26-34,2008
- ↑ 巻 直樹他:嚥下機能低下を呈した要介護認定高齢者に対する呼吸トレーニングが呼吸機能,嚥下機能,QOLに与える効果.理学13療8法学 第 44 巻第 2 号 138 ~ 144 頁(2017 年)理
- ↑ 9.0 9.1 會田信子他:女性高齢者に対する低負荷集団的運動プログラムの呼吸・歩行機能の評価.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌第17巻第1号.p.28-34
- ↑ 10.0 10.1 10.2 H003呼吸器リハビリテーション料
- ↑ 11.0 11.1 呼吸リハビリテーションに関するステートメント.本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌2018年第27巻第2号95-114