歩行
歩行について、把握表現できることは、リハビリテーションを行う上で極めて重要である。
リハビリテーションにおける人間の二足歩行について記載する。
概要
ヒトは発達とともに、実用的な移動手段として、2足歩行を採用する。
そして一般に、歳を重ねることによって、歩行に関する身体機能は低下する。
転倒リスクは、年齢に比例して向上する。
歩行の重要性
人間の移動にとって極めて重要な能力である。それは、歩行が実用であることが人間にとって、高い経済性と広範な場所で行動する自由を可能にするからである。
二足歩行ができることによって、走ることで平地は高速に移動ができたり、両手を使うことで崖をのぼったり、砂利道やいわばであっても進むことができる。車椅子や自動車では、ありとあらゆるところに移動するということは難しい。
また、歩行の機能や能力の低下は認知機能の低下との相関も報告されている。歩行機能の低下の背景には認知症の影響がある可能性や逆に歩行機能が低下することが認知機能の低下をよりすすめてしまう可能性がある。
運動不足による肥満や精神的な不健康さにつながる可能性もある。
このように、歩行が制限されることで日常生活に与える影響は極めて甚大である。生活のリハビリテーションに関わる作業療法士にとっては、評価介入ができることが極めて重要かつ最も基本的な要素の一つが歩行であると言える。
高齢になると、歩行機能が障害されることも珍しくなく、小子高齢社会においては、歩行の困難を改善できる作業療法士のニーズは極めて高い。
歩行が困難になる主な原因
疼痛(痛み)、筋力低下、バランスの低下、心理的恐怖
疼痛
関節痛、筋肉痛、神経痛、麻痺、骨折など
筋力低下
筋が歩行に必要な筋力を十分に発揮できない状態。
バランス低下
バランス能力が低下することによって、転倒のリスクが高まる。
恐怖
転倒したことがあるという経験によって歩行に対する恐怖の感情が想起され、体が動かなくなってしまうこともある。
リハビリテーションの現場における歩行の位置付け
歩行に関しては、主にPTが担当することが多い。作業療法士はPTと連携しながら、歩行に関するリハビリテーションを行うことになる。PT不在の場合は作業療法士が主体となって歩行に関する全てのリハビリテーションの過程に介入できる必要性が生じる。PTは、重力環境下における身体の駆動に関して、各種の身体機能回復を担当するリハビリテーション職種であり、その中に含まれる動作として、歩行やそれに関する訓練についてを行う。
歩行におけるリハビリテーションには、大きく2つの戦略があり、戦略の一つとして歩行能力の再獲得を支援する。これは、関節可動域や筋力やバランス感覚などの各機能を回復することがそのための方法となる。
戦略の二つとしては、歩行能力を代償する方法を提案しその使用方法を訓練支援することである。これは例えば、杖や歩行器といった福祉用具を用いることで解決を試みる方法である。
前者は機能回復訓練であり、後者は移動手段としての実用性や経済性に焦点を当てたアプローチであると言える。
歩行周期
歩行は、同じ動作の繰り返しが連続することによって成り立っている身体動作であるので、その繰り返しに着目し歩行周期で捉えることができることが非常に重要となる。
歩行周期がきちんと表現できるようになると、より歩行に関して細かく表現し、問題点を明らかにし、ピンポイントで問題点に介入を試みることが可能になる。
歩行周期には下記のようなものがある。
立脚期
足が、地面についているタイミング
遊脚期
足が地面から離れているタイミング
詳細は、こちらの論文に詳しい
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo/28/1/28_57/_pdf/-char/ja
日本における歩行のリハビリテーションと作業療法士
日本における、歩行のリハビリテーションを考える時、まず、機能回復訓練の内容や、その主たる業務を行うのは、理学療法士(以下PT)である。
であるので、実際のところ多くの作業療法士は、歩行に対して介入する割合が比較的高くないので苦手意識を持っている。
逆に、歩行について分析介入ができ、また、それを作業と関連させて問題解決を図ることができる作業療法士の存在はとても希少である。これから、地域で暮らす方へのリハビリテーション介入がますます増えていくであろうことも踏まえると、作業療法士は是非とも歩行について、ある程度評価介入ができるようになっておくことが必要である。
作業療法士は、PTがいる現場については基本的に作業療法士が行うことは、評価とPTとの連携である。この時作業療法士は、主に歩行に関する応用動作をどのように訓練していくかについて注力することになる。歩行に関連する能力をどのように運用していくかについて、対象者、PTとどのように連携ができるかを模索することにある。
しかし、歩行のリハビリテーションが必要な方がおられる施設であったとしても、残念ながら全ての職場にPTがいるわけではなく、全てのPTが歩行をきちんとみれるわけでもないので、作業療法士として、しっかりと対象者の満足に応じられるような、歩行の評価から介入までを、領域を問わず行えることが期待されている。
また歩行についての理解がきちんとできていると、作業療法介入の面でいろいろと捗る。
評価介入の質の水準としては、新人のPTが一通り習得している水準で十分臨床で通用する。よくわかっているPTとの連携が非常にスムーズに行えるからである。大切なのは、しっかりと評価のできるPTを見極めて、その人に繋ぐことである。極めて少数であると信じているが、なんちゃっての評価しかできないPTさんもおられると思われるので、連携がしっかりとできるように、作業療法士としての目線からきっちりと歩行が分析できるようにしておくべきである。
歩行に関連する評価の概要
歩行を全体像として捉えることと、それぞれの体のパーツををどのように的確に捉えて、各パーツ同士の関連を見出し、歩行機能そのものの改善につなげたり、対象者の生活改善につなげるかを念頭に置いた評価が必要である。
歩行の実用的な速度の根拠
社会生活上の必要性の観点からも、横断歩道を渡り切るために必要な歩行速度1.0m/sが一つの目安となりえる。[2]
実際、フレイルの判断基準の一つともなっている。
歩行の全体像の評価
歩行分析(歩行を全体的に観察して評価する)
詳細な身体の部位やその関連性についての評価
歩行分析
歩行分析は、歩行状態の全体像を分析する評価であり、そのため歩行に関するの評価の中で最も重要な評価といえる。
計測機械をもちいて厳密に行う方法と目視による方法がある。
一般的には、機械を用いての分析は日常的に行うことが不可能であり、臨床でも設備の整った限られた現場を除いて実践することは極めて難しい。
そうした現実的な制約の中で、目視による歩行分析が機会としてはより多く行われていると言える。
目視における歩行分析においては、もっぱら前述の歩行周期によって歩行を特定の連続動作の繰り返しとしてとらえる。また、立脚期と遊脚期などのように分類し、一連の連続した動作を便宜上、各期に分割して歩行を分析する。[3]
通常の歩行は、右足と左足を交互に進行方向に差し出しながら行うので、スムーズな重心の移動やその受け渡しが行えるかどうかについての知識が重要となる。そのため、移乗やポジショニングなどと同様に、重心の理解は非常に重要であり、前提として理解を深めておくことが必要である。
またその重心をいかに移動させるのかに関連する、筋や骨や関節といった、体の各種機能についての理解が欠かせない。
バランス感覚の有無やその不足を視覚などで代償する現象などについての理解も必要となるかもしれない。
ともかく、実際の歩行の様子をみて、どうしてそのような歩行になっているのかについての仮説検証をもとに、介入を考案し実践できることが、作業療法士が歩行分析を行う上でとても重要となる。
歩行分析に必要な要素 [3]
1.関節の運動パターンを観察する能力
2.正常な運動パターンのメカニズムを理解し,さらに観察した運動パターンを運動学の専門用語を用いて記述する能力
3.患者の異常な運動パターンのメカニズムを運動力学的に考察する能力
歩行分析のための有効なツール
スマートフォンやタブレット端末によるビデオ撮影
スマートフォンやタブレット端末を使用して、歩行の状態を撮影することができれば、歩行分析をするのにとても役立つ。
対象者にとって少ない負担で、歩行を評価確認できる。
また、記録としても優秀であり、時間の経過をおっての変化を映像を並列して見比べることができる。
さらに、その場で、対象者の方と一緒に見て確認することができる。
言うまでもないことであるが、プライバシーや情報管理に注意して、これらのツールを用いることが極めて重要である。
歩行機能の代償を可能とする道具、Aidtools
杖
最も簡単に導入できる。
一方で、動揺に対する支持性はあまり期待できない。
記事 杖も参照のこと
シルバーカー
みなれておりなじみがあるため、導入しやすく、直線的な歩行を安定させやすい。
合わないものを使うと円背を強化する可能性がある。
記事 シルバーカーも参照のこと
歩行器
下肢の免荷をしつつ、実用を促すことができる。
記事 歩行器 も参照のこと
車椅子
下肢完全免荷で移動できる。
記事 車椅子
下肢装具
下肢の肢位を動かしやすいようにする。
記事 下肢装具
義足
競技用義足や、ロボット義足など、新しい素材や技術を用いたものが次々と開発されるようになった。
記事 義足
歩行機能に影響する疾患、病気、状態等
歩行を困難にするような疾患は多岐にわたるので、臨床上よく見られるものについて特に記載する。
中枢神経系疾患
アルツハイマー型認知症、脳卒中、脊髄小脳変症 など 身体に指令を出す部分に障害が生じる場合には、歩行に障害が生じることがある。
リハビリテーション介入によって改善することが難しい場合も多い。
筋肉の萎縮や変性など
ALS(筋萎縮性側索硬化症)などのように、筋肉の出力が低下していく場合には、当然歩行に関連する筋力の筋出力の大きさが必要な値を下回った段階で歩行は困難になる。
骨折
骨折によって荷重をかけることが不可能になった場合には、外科的に整復したり補強する。その後、徐々に荷重をかけていき、状態の改善にむけた身体機能リハビリテーションが行われる。
日本の場合、その場所となるのは、おもに病院における急性期と回復期になる。
切断、四肢欠損
事故等の要因による外傷、または、糖尿病や感染症などが原因となっての壊死などの原因によって、切断を余儀なくされる場合がある。
あるいは先天的に、四肢欠損してる場合もある。
状態に応じて、義足や車椅子などの、道具を使っての移動が重要な選択肢となる。
病院における歩行リハビリテーション
冒頭にもあるように、病院においては多くの場合、歩行のリハビリテーションはPTが受け持つことが多い。
機能回復そのものについては、PTがその専門性を発揮するべき領分である。
ADLに関連して、立位や歩行、移動が問題となるなど、場合によっては、作業療法士が直接歩行に関わることもある。
しかし、作業療法士の本来業務としては、作業療法士は獲得された歩行能力をどのように用いて生活やQOLをより豊かにするかの戦略を具体化するのが仕事である。
訪問看護における歩行リハビリテーション
作業療法士が単独で業務遂行にあたることがほとんどであるので、歩行に関する評価や、介入までを作業療法士が訪問先の環境下などの条件を加味しておこなうことになる。
老年期の施設における歩行リハビリテーション
施設に属しているPTあるいは作業療法士が歩行リハビリテーションに従事する。
PTあるいは、作業療法士がいない施設においては、その他の職種が歩行のリハビリテーションを行っているか、リハビリテーションは行われていない。
例えば、特別養護老人ホームの場合には、場所によってはリハビリテーションが提供されていないこともあるようである。